私と母は、その日の十一時少し過ぎには建築会社の事務所で、M社長と向き合っていた。「天声人語」を読んでから、わずか三時間後であった。Mさんは、私が思い描いていた工務店主というイメージとは違い、大学の先生という感じがしたが、話し方はざっくばらんだった。「『天声人語』で外断熱のことを知ったのですが、詳しく教えていただきたくて来ました」「うれしいですね、『天声人語』を読んで訪ねてこられた最初のお客様です」と、少しはにかんだような笑顔で迎えてくださった。「一般的に家を建てようとする人は、間取りや設備などに対する不満を先に言います。最初に断熱の方法について質問した人は初めてですよ。ということは、多くの人は住み心地のいい家が欲しいと願っていないということです。しかし、いま住んでいる家はどうなのかと尋ねますと、冬は寒い、夏は暑い、かび臭いという具合に住み心地の悪さにうんざりしているという答えが返ってきます。○○さんはいかがですか?」私が返事をしようとすると、母が先回りをして答えた。「ええ、確かにその通りです。とても寒くて、暑くて、かび臭いですね」住み心地の良い家?いったい、それはどんな家なのかしら?生まれ育った家、建売住宅、そして嫁ぎ先の家、そのいずれかに住み心地の良さがあっただろうか?
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